沖縄戦裁判:訴訟の根拠を原告自ら否定する

2007/11/10 16:11

悲劇の沖縄戦慶良間列島では3つの島で「集団自決」が起きた。2人の戦隊長が「自決命令」を出したか出さないか? あたかもそれが問題になっているかに見えるが、果たしてそうだろうか?

1、その時その場で、「自決命令」を出したか出さないかの問題ではない


そもそも、
「足手まといにならないように住民はいざとなったら玉砕せよ」
は軍の教えであったし、2人の戦隊長はそれぞれ、渡嘉敷島座間味島の全権を預かる司令官であった。本人にその自覚があったかどうか、職責意識があったかどうか、ということ以前の厳然とした事実である。


そんななかで、戦隊長が
その時その場で「自決命令」を出したか出さないか?
言ったか言わなかったか?


これらは殆ど問題ではないだろう。現に、部隊にとって貴重な手榴弾が配られたことをもって、住民は「命令」と受け取ったのだから。

2、なぜ原告は、『鉄の暴風』を訴えなかったのか


その時その場で「自決命令」を出したか出さなかったか

これを問題にするのならば、「自決命令」について匿名的表現をしている『沖縄ノート』などではなく、まずは、そうした表現の大元である書、『鉄の暴風』をなぜ告訴しなかったのかが最も大きな謎である。

1950年に初版が発行された『鉄の暴風』は未だに版を重ねて発行されている、しかも、二人の隊長の実名を明示して「自決命令」を述べている。

「自決命令」は虚偽であり、それを出版することが名誉毀損というなら、真っ先に『鉄の暴風』を訴えるのが本筋である。原告はそれを意図的に回避して、『沖縄ノート』を被告席にあげた。

3、第3回証人尋問

なんでそんな不可解な訴訟を提起したのか? その謎が昨日11月9日の第3回証人尋問のやり取りで、明解になった。私は公判の傍聴にはいけなかった。しかし、第3回証人尋問の様子は、サンケイ=iza のレポートによって理解することが出来た。サンケイ=izaが録音機持込厳禁という公判傍聴ルールを破ったか、5人もの速記者を特別に雇って傍聴席を占拠したかして書き起こした尋問のようすである。、


明瞭になったには4点。

  • イ)原告本人は第3者から訴訟をそそのかされた。
  • ロ)原告は読んだこともない『沖縄ノート』を告発した。
  • ハ)原告は曽野本にかかれている『沖縄ノート』言及を、『沖縄ノート』における表現だと未だに誤認している。
  • ニ)名指しをした『鉄の暴風』を告訴せず、匿名の『沖縄ノート」を訴えた政治戦術


つまり、今回の訴訟そのものが、右翼団体のお膳立てによる茶番だった。したがって、「誰が、何を、なぜ訴えるのか」、そうした根本があやふやなママなのである。第3回証人尋問は、訴訟の根拠を原告自ら否定することとなった。

三老頭をはじめとする反沖縄ウヨクが総動員で結集した、
大阪地裁内外の11/9お祭り騒ぎの、結果はこれであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

イ)原告本人は第3者から訴訟をそそのかされた。

原告側代理人 「訴訟を起こしたきっかけは」


赤松さん 「3年前にある人から話があり、とっくの昔に解決したと思っていたのに『鉄の暴風』も『沖縄ノート』も店頭に並んでいると聞かされたから」

被 告側代理人「お兄さんは裁判をしたいと話していたか。また岩波書店と大江さんに、裁判前に修正を求めたことがあったか」

赤松さん 「なかったでしょうね」

被告側代理人「『沖縄ノート』が店頭に並んでいると教えてくれた人が、裁判を勧めたのか」


赤松さん 「そうなりますか」

※実際は嘉次さんの陸軍士官学校同期からの誘いだったかを問われ「そういうことになりますかね」と認めた。サンケイ=izaによる省略(沖縄タイムズ記事)

今回の裁判の仕掛け人でもあり原告代理人でもある、靖国応援団弁護士徳永信一氏は、提訴への仕掛けについてこんなことを言っている

この裁判の提訴の陰にはシベリア抑留体験を持つ元陸軍大佐の山本明氏の尽カがあったことを記しておきたい。山本氏は、旧軍関係者の協カをとりつけるべく全国を奔走し、至る所で《隊長命令説》を刷り込まれた人々の無知と無関心の壁に突き当たった。ようやく接触を果たした梅澤氏も、当初、裁判には消極的だった。汚名を晴らしたいという切実な思いを持ちながらも、再び無益な争いの渦中に巻き込まれることをおそれた梅澤氏は、山本氏に「無念ですが、裁料はせず、このまま死んでいくことに決めました」と告げたのだった。真実を無視する「世間」に絶望していた梅澤氏には、家族を巻き込んでまで裁判に眺む意味を見いだせないようだった。 


転機は、赤松元大尉の弟・秀一氏の決意によって訪れた。


京大工学部出身の秀一氏は、理系肌の穏やかな紳士である。『ある神話の背景』が世に出たことにより、敬愛する兄の冤罪は晴らされ、その名誉は回復されたものと信じていた。山本氏の仲介で面会した松本藤一弁護士から『沖縄ノート』が今も変わらずに販売されていることを聞かされた秀一氏は信じられないという顔をした。《軍命令による集団自決》が掲載された教科書の資料を渡されると、持つ手が震え、絶句した。 (正論2006年9月号)

ロ)原告は読んだこともない『沖縄ノート』を告発した。

被告側代理人大江健三郎氏の『沖縄ノート』を読んだのはいつか」

梅沢さん 「去年」
※裁判が始まったのは一昨年の夏


被告側代理人 「どういう経緯で読んだのか」


梅沢さん 「念のため読んでおこうと」

被告側代理人 「あなたが自決命令を出したという記述はあるか」


梅沢さん 「ない」

被告側代理人 「訴訟を起こす前に、岩波書店や大江氏に抗議したことはあるか」

梅沢さん 「ない」

原告側代理人 「先ほど『沖縄ノート』を読んだのは去年だと話していたが、その前から、(曽野綾子さんの著書で軍命令説に疑問を示した)『ある神話の背景』は読んでいたのか」

梅沢さん 「はい」


原告側代理人 「その中に『沖縄ノート』のことが書かれていて、『沖縄ノート』に何が書いてあるかは知っていたのか」

梅沢さん 「知っていた」


原告側代理人 「先ほどの『沖縄ノートに私が自決命令を出したという記述はなかった』という証言は、梅沢さんの名前は書かれていなかったという意味か」

梅沢さん 「そういう意味だ」
ハ)原告は曽野本にかかれている『沖縄ノート』言及を、『沖縄ノート』における表現だと未だに誤認している。


原告側代理人 「その中に『沖縄ノート』のことが書かれていて、『沖縄ノート』に何が書いてあるかは知っていたのか」


梅沢さん 「知っていた」

被 告側代理人「赤松さんが陳述書の中で、『沖縄ノートは極悪人と決めつけている』と書いているが」


大江氏 「普通の人間が、大きな軍の中で非常に大きい罪を犯しうるというのを主題にしている。悪を行った人、罪を犯した人、とは書いているが、人間の属性として極悪人、などという言葉は使っていない」

原告側代理人 「赤松さんが、大江さんの本を『兄や自分を傷つけるもの』と読んだのは誤読か」


大江氏 「内面は代弁できないが、赤松さんは『沖縄ノート』を読む前に曽野綾子さんの本を読むことで(『沖縄ノート』の)引用部分を読んだ。その後に『沖縄ノート』を読んだそうだが、難しいために読み飛ばしたという。それは、曽野綾子さんの書いた通りに読んだ、導きによって読んだ、といえる。極悪人とは私の本には書いていない」

※この辺についてもiza書き起こしには重大な省略がある。

「 大江さんは「罪とは『集団自決』を命じた日本軍の命令を指す。『巨塊』とは、その結果生じた多くの人の遺体を別の言葉で表したいと考えて創作した言葉」「私は『罪の巨塊の前で、かれは…』と続けている。『罪の巨塊』というのは人を指した言葉ではない」と説明、「曽野さんには『誤読』があり、それがこの訴訟の根拠にもつながっている」と指摘した。 」

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200711101300_01.html

誤読の証明の部分である。

ニ)名指しをした『鉄の暴風』を告訴せず、匿名の『沖縄ノート」を訴えた政治戦術

原告側代理人 「『鉄の暴風』にはお兄さんが自決命令を出したと書かれているが」


赤松さん 「信じられないことだった。兄がするはずもないし、したとは思いたくもない。しかし、329人が集団自決したと細かく数字も書いてある。なにか誤解されるようなことをしたのではないかと悩み続けた。家族で話題にしたことはなかった。タブーのような状態だった」

原告側代理人 「お兄さんに確認したことは」


赤松さん 「親代わりのような存在なので、するはずもない。私が新居を買った祝いに来てくれたとき、本棚で見つけて持って帰った」


原告側代理人 「ほかにも戦争に関する本はあったのか」


赤松さん 「2、3冊はあったと思う」


原告側代理人 「『鉄の暴風』を読んでどうだったか」


赤松さん 「そりゃショックだ。329人を殺した大悪人と書かれていた。もう忘れていたが、最近になって、ショックで下宿に転がり込んできたと大学の友人に聞かされた」

被告側代理人 「執筆にあたり参照した資料では、赤松さんが命令を出したと書いていたか」


大江氏 「はい。沖縄タイムス社の沖縄戦記『鉄の暴風』にも書いていた」


被告側代理人 「なぜ『隊長』と書かずに『軍』としたのか」

大江氏 「この大きな事件は、ひとりの隊長の選択で行われたものではなく、軍隊の行ったことと考えていた。なので、特に注意深く個人名を書かなかった」

(中略)


被告側代理人 「実名を書かなかったことの趣旨は」

大江氏 「繰り返しになるが、隊長の個人の資質、性格の問題ではなく、軍の行動の中のひとつであるということだから」


被告側代理人 「渡嘉敷の守備隊長について名前を書かなかったのは」


大江氏 「こういう経験をした一般的な日本人という意味であり、むしろ名前を出すのは妥当ではないと考えた」