「軍が強制」認めず

検定意見「今後も有効」

「集団自決」表記 検定審が結論


  【東京】高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に関する検定問題で、教科書会社六社からの訂正申請を審議していた教科用図書検定調査審議会検定審)の杉山武彦会長は二十六日午後、都内の文部科学省渡海紀三朗文部科学相と会談し、審議結果を報告した。渡海文科相は全社の記述を承認する手続きに入った。同日中に教科書会社全社に伝達される見通し。検定審の結論は、「集団自決」について「日本軍によって追い込まれた」など軍の「関与」を示す記述は認められたが、「日本軍が強制した」など主語の「日本軍」と述語の「強制」を直接つなげる表現は採用されなかった。

http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/?cmd=upload&act=open&page=15%E5%B9%B4%E6%88%A6%E4%BA%89%E8%B3%87%E6%96%99%E5%BA%AB&file=%E6%A4%9C%E5%AE%9A%E5%AF%A9.jpg
【写真】杉山武彦検定審会長(左)から意見書を受け取る渡海紀三朗文科相=26日午後、東京都千代田区文部科学省大臣室


 九月二十九日の県民大会で決議された「検定意見の撤回」は検定審の審議で議論されず、実現しなかった。文科省は「事実上の撤回でもない」として、今後の検定でも検定意見が有効になるとの認識を示している。
 一方、「集団自決」に関して「『強制集団死』とする見方が出されている」(三省堂)、「強制的な状況のもとで追い込まれた」(実教出版)など、主語を明示しない表現に限って「強制」の文言が容認された。
 渡海文科相は会談後、記者会見し「今回の訂正申請に対して速やかに承認の決定をしたい。沖縄県民の理解をいただきたい」と述べた。
 検定審が承認した記述では、「集団自決」が起こった背景や要因として、六社のうち五社が「戦時体制下の日本軍による住民への教育・指導や訓練」(第一学習社)、「敵の捕虜になるよりも死を選ぶことを説く日本軍の方針」(東京書籍)などを詳述した。
 また、東京書籍は①今年の検定で軍強制の記述が消えたことが問題になった②県議会と全市町村議会で検定意見撤回を求める意見書が可決された③九月に大規模な県民大会が開催された―と、今年三月にあった検定結果公表以降の県内の動きを記述した。
 清水書院も県内議会の意見書可決の動きを年表に記載した。


2面:http://www.okinawatimes.co.jp/pdf/2007122602G.pdf

沖縄の声受け止めず


教科用図書検定審議会日本史小委員会に意見聴取された林博史関東学院大学教授の話 沖縄の運動や執筆者の努力もあって、「捕虜になるな」という日本軍の教えや米軍に対する恐怖心を植え付けられたことなど、背景の説明は、より詳しくなっている。しかし、「日本軍の強制」という表現は一切認めていない。文章表現としては強制に近いことまで認めていても、「強制」という言葉をともかく使わせないという文科省のこだわりの姿勢が見える。
 「集団自決(強制集団死)」の核心部分は日本軍の強制ということだが、それを認めていない点は今春発表された内容と変わっていない。文科省は、沖縄の方々が求めてきたことを受け止めていないといえる。研究者としても、これまでの研究成果を反映していないどころか否定した検定で、受け入れられない。

教科書検定による「集団自決記述の変遷」


山川出版社「日本史A 改訂版」

原文 検定後の記述 訂正申請の記述
日本軍によって壕を追い出され、あるいは集団自決に追い込まれた住民もあった。 日本軍に壕から追い出されたり、自決した住民もいた。 日本軍によって壕を追い出されたり、あるいは集団自決に追い込まれた住民もあった。

第一学習社「高等学校改訂版日本史A 人・くらし・未来」

原文 検定後の記述 訂正申請の記述
集団自決のほか、スパイ容疑や、作戦の妨げになるなどの理由で日本軍によって殺された人もいた。 集団自決のほか、スパイ容疑や、作戦の妨げになるなどの理由で日本軍によって殺された人もいた。 スパイ容疑や作戦の妨げになるなどの理由で、日本軍によって殺された人もいた。日本軍は住民の投降を許さず、さらに戦時体制下の日本軍による住民への教育・指導や訓練の影響などによって、「集団自決」に追い込まれた人もいた。

三省堂「日本史A 改訂版」

原文 検定後の記述 訂正申請の記述
日本軍に「集団自決」を強いられたり、戦闘の邪魔になるとか、スパイ容疑をかけられて殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。 追いつめられて「集団自決」した人や、戦闘の邪魔になるとかスパイ容疑を理由に殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。 戦闘の妨げやスパイ容疑を理由に殺された人もいた。さらに、日本軍の関与によって集団自決に追いこまれた人もいるなど、沖縄戦は悲惨をきわめた。

■東京書籍「日本史A 現代からの歴史」

原文 検定後の記述 訂正申請の記述
日本軍がスパイ容疑で虐殺した一般住民や、集団で「自決」を強いられたものもあった。 「集団自決」においこまれたり、日本軍がスパイ容疑で虐殺した一般住民もあった。 日本軍によって「集団自決」においこまれたり、スパイ容疑で虐殺された一般住民もあった。

清水書院「高等学校日本史B 改訂版」

原文 検定後の記述 訂正申請の記述
なかには日本軍に集団自決を強制された人もいた。 なかには集団自決に追い込まれた人々もいた。 軍・官・民一体の戦時体制のなかで、捕虜になることは恥であり、米軍の捕虜になって悲惨な目にあうよりは自決せよ、と教育や宣伝を受けてきた住民のなかには、日本軍の関与のもと、配布された手榴弾などを用いた集団自決に追い込まれた人々もいた。

三省堂日本史B 改訂版」

原文 検定後の記述 訂正申請の記述
日本軍に「集団自決」を強いられたり、戦闘の邪魔になるとか、スパイ容疑をかけられて殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。 追いつめられて「集団自決」した人や、戦闘の邪魔になるとかスパイ容疑を理由に殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。 戦闘の妨げやスパイ容疑を理由に殺された人もいた。さらに、日本軍の関与によって集団自決に追いこまれた人もいるなど、沖縄戦は悲惨をきわめた。

実教出版日本史B 新訂版」

原文 検定後の記述 訂正申請の記述
日本軍により、県民が戦闘の妨げになるなどで集団自決に追いやられたり、幼児を殺されたり、スパイ容疑などの理由で殺害されたりする事件が多発した。 県民が日本軍の戦闘の妨げになるなどで集団自決に追いやられたり、日本軍により幼児を殺されたり、スパイ容疑などの理由で殺害されたりする事件が多発した。 日本軍により、戦闘の妨げになるなどの理由で県民が集団自決に追いやられたり、幼児を殺されたり、スパイ容疑をかけられるなどして殺害されたりする事件が多発した。

実教出版「高校日本史B 新訂版」

原文 検定後の記述 訂正申請の記述
日本軍は、県民を壕から追い出し、スパイ容疑で殺害し、日本軍のくばった手榴弾で集団自害と殺しあいをさせ、800人以上の犠牲者を出した。 日本軍は、県民を壕から追い出したり、スパイ容疑で殺害したりした。また、日本軍のくばった手榴弾で集団自害と殺しあいがおこった。犠牲者はあわせて800人以上にのぼった。 日本軍は、県民を壕から追い出したり、スパイ容疑で殺害したりした。また、日本軍は、住民に対して米軍への恐怖心をあおり、米軍の捕虜となることを許さないなどと指導したうえ、手榴弾を住民にくばるなどした。このような強制的な状況のもとで、住民は、集団自害と殺しあいに追い込まれた。これらの犠牲者はあわせて800人以上にのぼった。

那覇市議会『教科書検定に関する意見書』

沖縄戦「集団自決」をめぐる教科書検定で、訂正申請した教科書会社に対し文科省が書き直しを求める「指針」を伝えたことについて、那覇市議会は二十五日、「軍の強制をあいまいにし、到底容認できない」とする意見書を全会一致で可決した。

教科書検定に関する意見書


去る9月29日、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が、沖縄県知事沖縄県議会議長、那覇市長及び県内41全市町村議会をはじめ、県民が一体となり、復帰後最大の県民の参加で開かれ、文部科学省による沖縄戦の歴史の歪曲に抗議し、その実相を正しく継承していかなければならないという熱い思いのこもった大会となった。


旧日本軍の関与が削除されたことを機に、これまで証言をためらっていた戦争体験者の方々から、沖縄戦に関する新たな証言が相次いでいる。


当市議会は、復帰35周年の5月15日、沖縄戦における「集団自決」が、日本軍による命令・強制・誘導等なしに、起こりえなかったことは紛れもない事実であり、そのことがゆがめられることは、悲惨な地上戦を体験し、筆舌に尽くしがたい犠牲を強いられてきた沖縄県民にとって、到底容認できるものではない。沖縄戦の歴史を正しく伝え、悲惨な戦争が再び起こることがないようにするためにも、今回の検定意見が速やかに撤回されるよう意見書を提出した。


しかし、文部科学省は、那覇市民、沖縄県民の沖縄戦における「集団自決(集団死)」の実相、体験を無視し、教科書会社による訂正申請に対し、再度の書き直し「指針」を伝えたことが明らかになった。


この「指針」に示された内容は、「沖縄戦の事実を正しく伝えてほしい」との市民・県民の思いに応えるものでなく、軍の強制をあいまいにするもので到底容認できるものではない。


よって、文部科学省は、「沖縄戦の事実を歪曲してはいけない」との市民・県民の声を真摯に受け止め、速やかに検定意見を撤回し、記述を回復されるよう、再度強く要請する。


以上、地方自治法第99条の規定により、意見書を提出する。


平成19年(2007年)12月25日
那 覇 市 議 会


あて先  衆議院議長参議院議長、内閣総理大臣文部科学大臣

12 月26 日水曜日
発行所那覇市おもろまち1丁目3番31号沖縄タイムス社http : //www.okinawatimes.co.jp/

一面:http://www.okinawatimes.co.jp/pdf/2007122601G.pdf